Give and Take: A Revolutionary Approach to Success (日本語題 『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』の英語の原書) の日英バイリンガル感想・解説です。今回も大いにネタバレしながら書評します。
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GIVE & TAKE 原書: 読んだ理由
2015年頃に評判を聞いて本書の存在は知っていたのですが当時は東京で超ブラック社畜(泣)をやっていたので読む時間がなかったんです。その後シンガポール赴任を機にようやく読む時間ができたので読了。そのあと前回の記事で感想書いたEssentialism を読んでいる最中にEssentialismの第6章”ESCAPE”にある、
「むやみやたらに断る力を発揮しまくって会社組織の中で立場を悪くしちゃうか?それとも頼まれごとばかり引き受けてしまって疲弊して終わる人で終わるか?」
の点について「待てよ。この点についてGIVE & TAKEに有益な事が書いてあったぞ」と思って急ぎ読み返し書評した+まだ書評してなかったのを思い出しこのタイミングで感想書いてみた次第です。
GIVE & TAKE 原書: 著者は誰?
本書の著者Adam Grantはペンシルベニア大学ウォートン校(全米トップビジネススクールのひとつ)の史上最年少終身教授でもあり組織心理学者。組織マネジメント講習コンサルとしてグーグル、ゴールドマンサックス、フェイスブック、ピクサー等名だたる有名企業をクライアントに抱える。
えーとラブクラフトさんはウォートンMBA卒業生についてなにやらいろんな思い出があるみたいですが…ほっときます(自粛
GIVE & TAKE 原書 感想・解説 とくに興味深い点とは
すごくざっくりいうと本書は、
- 「情けは人の為ならず」(ゆくゆくは自分の身を助ける)は事実
- 周りに親切にする人の方が不親切な人よりも大きく成功する
- ただし大きく恩恵を得るためには留意すべきポイントが数点ある
について述べています。
企業組織経営や企業内の力学にフォーカスしたビジネス本ながら「親切」を最大に活かし成功するのは可能、と斬新な切り口から考察しており、本書が世に出たのをきっかけに著者のアダム・グラントが世界的にドン!と有名になったとも言われています。また日本でギバーやテイカーとかマッチャーなどという言葉がちょっと使われるようになったのもこの本の日本語版が売れたから、と噂されていますね。
ではいよいよ大いにネタバレしつつ、とくに面白かった・印象的だった点を見ていきましょう。
注意: これ以降は壮大なネタバレが登場します。ネタバレを読みたくない方はブラウザで戻るか当ブログの別な記事を読んでね
GIVE&TAKE 原書 テイカーtaker ギバーgiver マッチャーmatcherとは
本書のタイトルにもなっているGive and takeというフレーズは英語では「持ちつ持たれつ」「駆け引きの上で互いに譲歩し合い協力し合う」の意味で使われます。
- Giver: いわゆる「親切な人」で、相手が成功するように助けることをいとわない人。会社組織の中ではこのタイプは少数派。
- Taker: いわゆる「自己中心な人」で、自分が周りに与えるよりも周りから奪うことの方が多い人。
- Matcher: 相手が自分の得になる行動をした時だけ親切になる人。公平性を重要視するのでGiverは称賛し、Takerのことは罰する。
本書は「周りに親切にする人の方が不親切なひとよりものちのち大きく成功する」という点が軸となっているのですが、なんと研究によると最も大きく成功しているのはGiverである一方で最も業績が振るわないのもGiverであるという事も分かっていると著者は述べるんです。
この記事の上の方で成功するためには「留意すべきポイントがいくつかある」と書いたのはまさにこれが理由なんです。それらのポイントをおさえておかないとぜんぜん業績が振るわないGiverとなりかねないのです。
まさに利用されておしまい。それでそうならないための「留意すべきポイント」は本書の6~7章で詳しく説明されます。
さてGive and takeであれば良いのですがtakeばかりするくせにgiveしない、いわゆるTaker(テイカー/他人から奪うことが人生の柱になっているジャイアン主義の人) にお悩みの方も巷にはすごく多いらしい、というのは想像に難くないですよね。
本書ではそのジャイアン体質なTakerの代表格としてKenneth Layという人が挙げられているのですが…
この人ってあのエンロンの一大スキャンダルの元凶となったエンロンCEOだった人です。
*Enronおよびエンロン事件:
2001年末に粉飾会計をウォールストリート・ジャーナル紙にすっぱぬかれた米国の巨大企業エンロン(Enron)が大規模倒産した事件。その不正・隠蔽・会計データ改ざんの度合いはすさまじく、2万人の従業員が職を失いエンロン所有の企業年金を老後の支えにしていた大勢の人達にも被害が及んだ。この倒産騒ぎに関わる一連の不正スキャンダルは米国株式市場全体の信用を根底から揺るがすほどの社会問題にまで発展し、あのSOX法(サーベインズ・オックスリー法、会計監査や投資業界の人なら皆馴染みがある米国の企業改革法)が誕生するきっかけを作ったともいえる。
で、ここではそのKenneth Layという人をTaker代表格として取り扱うんだけど僕は2章The peacock and the pandaのP40-45にかけて出てくる、
「会社の年次監査報告書に載っている最高責任者の顔写真からTakerが見分けられる」
の説が個人的にすごく面白いと思いました。たとえばこの箇所↓
- 引用元: Give and Take, Adam Grant, Chapter 2 The peacock and the panda, P42
(上掲写真の下部分の和訳)
左側の写真はハンツマンの2006年次監査報告書。彼の写真はページ全体の10%にも満たないほどちっぽけである。対する右の写真はエンロンの1997年次監査報告書。1ページまるごとレイの顔写真である。
*上記和訳はブログ管理人による
つまり会社の年次監査報告書に載っている最高責任者の顔写真の大きさからTakerの兆候が読み取れる(顔写真が大きければ大きいほどTakerの可能性が高い)という有名な研究結果があるんです(*ちなみに左側のハンツマン氏はtakerの真逆のgiverであると有名な人)
あとMatcherがどのようにGiver とTakerの間で動くか?」も興味深かったし、Takerつまりジャイアン体質の人がいる一方ですごく成功してるGiverの実例も多数紹介されており個人的には4章で紹介されているノースカロライナ大とデューク大で教鞭をとるC. J. Skender教授の例が非常に印象的でした。
実際に本書で紹介されている方々レベルに周囲に親切にするのってかなり大変だと思うけど、もし自分が将来大学の講師になったらこのC. J. Skender教授みたいになりたい。
GIVE&TAKE原書 ギバーのための100時間ボランティアルールとは?
Giver=「与える人」であることによってtaker, matcherといった他人にいいようにこき使われて心身ともに消耗してしまったり最悪うつになってしまわないのか?と思うんですが、実際やはり消耗してしまう例は非常に多いわけです。
で、そこでそんな心身ともに消耗してしまう(=バーンアウト)ことを防ぐとともにgiverとして周囲に貢献しつつ恩恵を得るにはotherish (他者志向)であることが大事だと著者は説きます。
If takers are selfish and filed givers are selfless, successful givers are otherish: they care about benefiting others, but they also have ambitious goals for advancing their own interests.
- Give and Take, Adam Grant, Chapter 6 The Art of Motivation Maintenance, P182
和訳:
テイカーが利己的でギバーの失敗型が自己犠牲的とすれば、ギバーの成功型は他者志向的といえる。すなわち他者志向的な人は周囲の人たちを助けることを大切にしており、なおかつ自らの利益も得ようという野心も持っているのだ
- 和訳は当ブログ管理人による
著者はself-interest (自己利益)とother-interest (他者志向) を同時に追求することは充分に可能で、そのようないわば「ハイブリッド型」の人が他人を大いに助けながらも自らも大いに成功するotherish (他者志向)な人なのだと提唱します。
そして本書を理解する上で必ずおさえておかないといけないのが社会の中での4大グループの構図です↓↓
引用元: Give and Take, Adam Grant Chapter 6 The Art of Motivation Maintenance, P182 *上の図は引用元情報をブログ管理人が字体・着色・表スタイルを見やすく調整したものである
つまり上の図の右上、青線で四角く囲ってある部分を目指しましょう、ということです。
ところで僕はgiverやotherishについて個人的にすごく気になっていた事が2つあってまず、
1. つねにgiveばかりしていてバーンアウト(無理しすぎて消耗)しないの?
という点と、
2. matcherはともかく、利己的で他人を蹴落とすのが生きがいみたいなtakerにいわゆる「いいひと」であるgiverは搾取されないの?
だったんですよね。
で、6章以降でバーンアウトについては掘り下げているのですがバーンアウトしないためにはまず、ポジティブなフィードバックが得られることが大切だと著者は説きます。
つまり「自分が他者を助けるためにやっていることがどれほどその支援を受けている側の人にとって助けになっているのか、『具体的な手ごたえ』が得られれば業務が増えてもむしろ充実感・自己肯定感は高まり、むしろ気力は増す」ということを複数の研究をもとに主張しているんです。
そのうえ、本書ではgiverである人の方がそうでない人より幸福で満足度の高い人生を送っているという研究が複数あるとまで述べています。それが6章The Art of Motivation Maintenanceの中のOtherish Choices: Chunking, Sprinkling, and the 100-Hour Rule of Volunteering (P196) で出てくる「100時間ボランティアルール」のことなんですが、個人的にはこの「一年間に総計100時間のボランティアに参加した人は一年後に人生全般について幸福度・満足度が上昇し自尊心もアップした」という研究結果が僕にとってはとくに印象的でした↓↓
A hundred hours a year breaks down to just two hours a week. Research shows that if people start volunteering two hours a week, their happiness, satisfaction, and self-esteem go up a year later.
- Give and Take, Adam Grant, Ch6 The Art of Motivation Maintenance, P201
和訳:
年間100時間は週2時間ということになる。研究結果では週2時間のボランティア参加をすると幸福感・満足度・自尊心が一年後にはアップすることが分かっている。
*和訳は当ブログ管理人による
ただし、これはやればやるほど良いかというわけではなく、週2時間というのが重要ポイント。週2時間ラインを超えると新しいスキルや知識を身につける効率が低下するうえに、生活のほかの部分にしわ寄せがくる可能性も増すそうです。
それと著者は「無理に自己犠牲してしまうgiverがバーンアウトに陥りやすい」と警鐘を鳴らしています。他人に気遣いしてしまって他人から助けを借りたくない・周囲のサポートが不足している環境だとバーンアウトになりやすい、との専門家の見識も紹介しています。
GIVE&TAKE 原書 Takerから身を守るには
さて上で出てきた「つねに周りにいるtakerにいわゆる『いいひと』であるgiverは搾取されないの?」の疑問ですが、これの対応策は7章で出てきます。
ここまで読んできた中で僕としては6章が本書の最大の勘所か? と思っていたのですが、じつは7章も6章に劣らず肝心な章なのです。
なぜなら7章の”Chump Change”ではtakerやfaker (愛想良く人当たりも良いがじつはtakerな種類の人)からgiverがいかに身を守り、ぞんざいに搾取され損ばかりするのを避けつつ他者貢献の恩恵を得てゆくか、という自己防衛について説明されているからです。
そんなわけで7章Chump Changeではいくつかtaker/fakerを暴き出す方法が記されてるのですが中でも個人的にはげしく同意だったのが、
「『礼儀正しく愛想良いかどうか』と『利他的であるかどうか』は互いに全く無関係」
という点。これは僕自身の経験から言ってもその通りだと実感しています。これまで多くの人と一緒に仕事をし関わってきましたがこの世の中、礼儀正しく愛想良いから利他的な思いやりに満ちた人だとは「全く」限りません。
また、このように世の中にはtakerやfakerがわんさかいるので、その手の連中から搾取されないようにガードしつつもgiverとして日々周りへの親切を続ける戦略がこの7章Chump Changeに出てくるgenerous tit for tat (ゆとりを持たせたしっぺ返し戦略)。これはゲーム理論にあるtit for tat (しっぺ返し戦略)の応用とも言えます。
すなわちtakerがこちらを搾取しようと自己中心的行動を始めたらこちらもmatcher方式に行動を変えるわけですが、それを永遠に続けるとgiverじゃなくなってただのmatcherになってしまうので、次のような応用を利かせるのです。
But one out of every three times, it may be wise to shift back into giver mode, granting so-called takers the opportunity to redeem themselves.
- Give and Take, Adam Grant, Ch7 Chump Change, P230
和訳:
そうしながらも三回に一回の割でギバーモードに転換し、テイカー(と見られる相手)が立ち直れる機会を与えてやるのである
*上記和訳はブログ管理人による
原則としてはじめは相手をフェアな人間と信頼するところから始めるけれど注意深く相手の行動・社会的評価を観察し、臨機応変に戦略を変える必要があるわけですね。
GIVE&TAKE 原書: 感想 結局どうよ?
結論から先に言いますといろいろと興味深い点が多く、かなり良かったです。
まず、本書は「小さな親切」「利他の精神」についての著者の知見が理論立てて紹介されており、それらを世界中から集めた膨大な量の興味深い研究結果で裏づけています。
次に良かったのが本書を読んでるとなんだか米国の大学の授業に出ている感覚がよみがえるところでした(当ブログ管理人は米国の大学・大学院を卒業しています)
本の書き方が大学教授が講義を進めるスタイルとまるで同じなんですよね。本書の第一章で本全体の流れと内容を大雑把に紹介し、各章の始めに「これからこの章ではこの内容について話す」と必ず紹介してから進む。そして最終章は前章までを振り返りただ要約まとめで締める。
ただし、ほかのビジネス本と同じように定性的(=質的)な研究が多いので本書で登場する研究結果については研究者バイアスによる影響がどれだけあるか不明だし、ちょっと気になる点ではあります。
当ブログ記事では本書の内容のうち、特別にブログ管理人の印象に残った部分のみ(6章と7章のごく一部)にしか主に言及していません。本書内ではgiverで成功している方々の例も多数紹介されているし、takerとmatcherをgiver寄りに変化させるための仕組み等、興味深い内容が盛りだくさんなのですが当ブログ記事ではその辺は触れません(本の要約サイトではなく読書感想なので)。
その辺りを知りたい方はぜひ本書を手に取ってご自分で読んでみることをお勧めします。
GIVE&TAKE 原書 感想 まとめ
では今回の感想まとめです。
- 個人的にかなり良かった
- 研究結果の引用数が多く、数々の面白い研究・調査データに触れることができて感心することが多かった。
- 個人的にはとくに6章と7章が本書の肝だと思うので気合入れて読むべし
- 実用的ですぐにも応用できる戦略が多いのでとっつきやすい。ただし定性的(質的)な研究が多いので、本書で登場する研究結果については研究者バイアスがどれだけあるかは不明
うーん…この件に限らず(日本語で検索すると)いろいろと情報ググっても近年は検索結果トップのほぼ全部が企業が広告目的でやっている浅い提灯レビューとかカスみたいなサイトしかヒットしない場合もけっこうあります。
しかし!収益性度外視・ほぼボランティアでやってるわりに当ブログで紹介する書籍はきちんと全て読んでから内容を整理したうえで書評してます。僕のマニアックなこの日英バイリンガル書評がどこかの誰かのためになれば幸いです。
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