We Are Not Free (Traci Chee 著) について控えめにネタバレしながら感想を述べてみます。今回は日本語本ではなく、またいつも通りの英語で書かれた原書の書評に戻ります。
いきなり結論から述べますと、本書は僕的には
すべての日本人に向けて全力推ししたい力作
です。理由はのちほど。
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*オーディブルの英語音声が複数の若い男女の俳優らでかなり雰囲気にピッタリな朗読が聞けます 米国の話なのでもちろん米国英語です
- We Are Not Free ネタバレ感想: 本書を読んだ理由
- We Are Not Free 感想: 著者は誰?
- We Are Not Freeネタバレ感想 表紙の絵や細部も良い
- 4 We Are Not Freeネタバレ感想 全く快適ではない日系人収容所での生活
- We Are Not Freeネタバレ感想 日系人収容所の外はもっと地獄
- We Are Not Free ネタバレ感想 当時の米国日系移民一世たちは米国市民権を持てなかった??
- We Are Not Free ネタバレ感想 米国日系移民の資産はどうなったの?
- We Are Not Free ネタバレ感想 日系人収容所内での恋愛って?
- We Are Not Free ネタバレ感想 まとめ
We Are Not Free ネタバレ感想: 本書を読んだ理由
数か月前にTwitterのフォロワーさんからすごい本がある、と本書の存在を教えて頂いたんです。その後自分でアマゾン感想その他本書や著者に関する情報をいろいろググってみてこれは一読の価値ありと確信してからポチりました(*インプットの質にはこだわるので厳選したものだけ読みます)
We Are Not Free 感想: 著者は誰?
著者はTraci Cheeという日系米国人4世の女性。ヤングアダルトもの(略称YA・日本のラノベみたいなジャンル)小説を数冊書いている方です。本書We Are Not FreeもYA小説として2020年に世に出たのですが、出版されるなりNew York Timesベストセラーとなり脚光を浴びるようになりました。なお本書は米国内で複数のメジャーな文学賞を受賞もしくは最終候補作として話題に上ったとのこと。
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では本書の中でとくに興味深かった・印象的だった点を見ていきましょう。
注意: これ以降はネタバレが登場します。ネタバレ読みたくない方はブラウザで戻るか当ブログの別な記事を読んでね
We Are Not Freeネタバレ感想 表紙の絵や細部も良い
注意: これ以降はネタバレが登場します。ネタバレ読みたくない方はブラウザで戻るか当ブログの別な記事を読んでね
本書はヤングアダルトもの(YA= 青少年向けフィクション)ながら、第二次世界大戦中の米国日系人収容所にまつわる事象について綿密な調査をした上で時代考証をし、当時の雰囲気をそこなわないように注意して書かれています。
まず本書は表紙カバーの絵からすでに良いんですよ。
ぱっと見ジャパンマンガ風の絵?と思うでしょ?でもよく見ると3人の少年少女たちの顔がジャパンマンガ画風じゃなくて、
ちゃんと「日本人の顔」なんです。
もちろんこの3人は本書のストーリー中でも重要な役割を担っています。たとえば左の女子。
そう。この金髪少女じつは金髪のカツラかぶってるんです。しかし時は1942年。当時は安全に使える髪用ブリーチ剤などなかった様子ですしこのようなカツラも安くはなかったのでは?と思われんですが彼女は妥協しない(驚
で、これはいったい?と気になるのでググったのですが「風と共に去りぬ(原題Gone with the Wind)」の主人公ヴィヴィアン・リーのヘアスタイルを真似たかつらのように見えます。
映画「風と共に去りぬ」が公開されたのは1939年。この表紙の若者たちが収容所に収監されたのが1942年だから、時代考証的にもタイミングがちゃんと合う。
この金髪少女については影響を受けやすい17歳という年齢で風と共に去りぬという大ヒット映画を観て主人公ヴィヴィアン・リーのように強くカッコよく生きたいとかなり強く憧れたことがうかがえます。そして本書のストーリーを追うにつれ、日米間の戦争がもたらした苦境の中でも故郷の米国が作った映画によって希望の光を見出す、そんな米国で生きるひとりの日系人少女の姿が見えてきます。
次に、中央の眼鏡の少年がミノル。14歳。
英語のMinnowという単語はメダカのように小さな淡水魚、弱小とかザコキャラなどという場合の「雑魚」の意味もあるので、それを知って周りは「ミノ」と呼んでいることがうかがえます。
このミノくんが描いたスケッチ画として本書のあちこちに挿絵が載っているのですが、これも1940年代の雰囲気を醸しておりなかなか良いです(本書はフィクションなのでもちろん挿絵はプロが描いているのだが、どうやら著者の取材した日系人収容所の情報に基づいて描かれた挿絵が入れてある様子。この本の出版の担当者の心遣いが感じられます)
そして最後に、右のロン毛の少年は19歳。本書に登場する14人の若者らの中では19歳は年長です。そのせいもあってこの少年はやがて第二次世界大戦に米国兵士として従軍していきますが…
もうめっちゃ大変な目に遭います(詳細は伏す)
4 We Are Not Freeネタバレ感想 全く快適ではない日系人収容所での生活
じつは僕は本書を読む何年か前に太平洋戦争さなかの日系人収容所での生活について
「収容所での生活では食事も適切に支給されており、さほど苦痛と思うものでもなかった。物資不足よりも仕事がないために暇すぎることがじつは一番苦痛であった」
という記述をどこかで見たことがあるのですがこれを見た瞬間に
寝言は寝て言えw 米国のプロパガンダ乙( ´,_ゝ`)プッ
と思ったのを今でも覚えているんですよね。
じつはこの「いかにも嘘くさいのにパッと見はまともに見える日系人の証言とされる記録」を読んで感じたなんとも言いようのない強烈な違和感、これが僕が本書を手に取ろうと思った最大の理由だったと言ってもよいのですが…
とはいえ、第二次世界大戦中の空爆にさらされた日本国内や南洋の激戦地に生きていた日本人の皆さんの苦境を思えば、たしかに日系人収容所の生活は比較にならないほど「物質的には」恵まれていたのだな、というのが僕の抱いた正直な感想ではあります。
しかしその一方で、大戦中の米国本土で日系人であるというただそれだけのせいで敵性外国人(もしくはその一味)としてマークされ、いやおうなく24時間憎悪に燃える群衆に囲まれて生きる、いや、「生死を握られている」ことの恐怖・ストレスレベルは実際計り知れないと考えると背筋が寒くなります(それも常に首からIDタグを下げていないと宿舎から一歩も出られない状態 泣)
さてここで気になるのが
「では当時の強制収容されてしまった日系人達は日系人収容所の外に出る機会はあったのか? もし出ることができたのなら収容所の外の世界は収容所の中よりマシだったのか?」
ですが、それについて今から見てみましょう。
We Are Not Freeネタバレ感想 日系人収容所の外はもっと地獄
まず「では日系人収容所の外に出る機会はあったのか?」ですが、答えは「非常に限定的ながらも、あった」です。例えば日系人収容所内の中学校の女子チームがバスケの親善試合にスクールバスで地元の街の中学校へ行くんですね。
ただしこの親善試合からバスで帰る途中で非常に悲しいことが起こります。
米国人の担任の先生(白人女性)と生徒一名が人数分のアイスクリームを買いに店に寄るんですが、店員の男性が一目日系人少女を見るなりいきなり顔真っ赤にして態度を豹変させ大声で「ジャップ出ていけ!ここにはお前らに売るものはねえ!」と怒鳴り散らしたんですが、なんとここで「白人の先生のほうが泣いちゃう」んです。日系人少女じゃなくて。
僕はこの場面が強烈に印象的でした…
先生は若い白人女性のとても優しく献身的に日系人少女達の指導をしてくれる方です。よもや米国人、それも白人の金髪の自分が「(ジャップと親ジャップ派の白人のお前も)お前ら俺の店から出ていけ!」と白人から怒鳴られるはめになるとは微塵も思っていなかったでしょう。
さて時間を少し戻しますが、では日系人強制収容が実行される直前のサンフランシスコの街の雰囲気はどうだったか?というと、すでに一般的米国市民らの日系人に向けた敵意と憎悪はかなりのものだったことがうかがえます。それこそ夕暮れ時に普通に帰宅しようと歩いていると敵意と憎悪をむき出しにした米国人青年達にからまれてボッコボコの半殺しにされる雰囲気。
そういう「いきなり街の通りで集団リンチに遭うか?遭わないか?」という意味では日系人収容所内の方が安全と言えたのかな、とは思います。
この住み慣れた街の通りをいつも通り歩いていて、突然敵意をむき出しにした集団に囲まれリンチされるかもしれないという恐怖。
ここを読んで僕がふと連想したのが、2020年~2021年の米国の大都市(NYやAtlanta)のど真ん中でアジア系住民を狙って暴行をふるう犯罪が頻発した時のこと。当時話題になったので覚えてる方も多いと思いますが、NYのマンハッタンのど真ん中で著名日系人ピアニストが暴漢に襲われ瀕死の重傷を負う事件もありましたよね。
しかし本書の太平洋戦争真っただ中の米国を思えば、2020年~2021年のアジア系移民を暴行した犯人たちが持っているのよりももっともっと激しい憎悪と敵意のターゲットにすべての日系人住民がなったわけですよ。
なんたって自分が住んでいる国の政府が堂々と「お前ら敵だ」って宣言してるわけですからね…
つまり第二次世界大戦中の米国には日系人が気が休まる場所なんてどこにもなかったんです。それを想うとあの時期を耐え忍んだ日系人の皆さんには本当に頭が下がる思いです。
We Are Not Free ネタバレ感想 当時の米国日系移民一世たちは米国市民権を持てなかった??
1942年頃の米国日系移民一世は米国市民権を持てなかった、と聞くと驚く人は多いかと思います。なんと当時の一世の方々は米国に何年も住んでいて自らたとえ望んでいても、米国に帰化し米国市民権を得るということは許されなかったんです。
これは現在のわれわれから見ると驚きなのですが、本書のこの文章を引用します。
We call them Issei. They’re the first generation of Japanese immigrants to come to the United States, but they’ve never been allowed to become naturalized citizens.
- We Are Not Free, Ch1 We Never Look Like Us, Traci Chee
和訳) 日系人のあいだでは一世とよばれる人達。彼らこそ合衆国に移民してきた最初の世代なのだが、彼らが米国国籍を取得して帰化することは許されなかったのだ。
- 上記日本語訳はブログ管理人による
次に驚きなのが、彼ら在米日本人たちはいつFBIに突然身柄を拘束されて刑務所行きとなるか分からないという状態であったということ。これはすごく恐ろしいことですよ…
現在の米国でも移民1世で米国市民権が無い人たち(不法滞在者)はけっこう存在するのですが、それでもある日突然罪状もないのにいきなりFBIに身柄拘束されるなんてことはないです。せいぜい移民局に見つかるかどうか心配しなきゃならない程度。
そもそも現在の米国移民1世の皆さんは1942年当時の日系人のような「敵性外国人」などではない、つまり米国連邦政府から国家の敵として睨まれているわけではないのでまるで違う状況なんですよね。
1942年当時の米国在住日系人の全員が経験した恐怖感とストレスレベル…もうただただ1945年夏の終戦時まで生き抜いただけでものすごい偉業だと僕は思うのです。
We Are Not Free ネタバレ感想 米国日系移民の資産はどうなったの?
1942年、真珠湾攻撃をきっかけに十分な準備期間すら与えられず日系人収容所に強制されてごく最小限の荷物とともに収容された日系人たち。
では当時住んでいた自宅や所有していた事業や不動産はどうなったのか?ですが、本書には米国政府による日系人所有の資産の没収といったようなことは出てきません。
ただし収容所への転居準備のあわただしさの中で二束三文で大事にしてきた家財道具一式はおろか、高価な家宝までも米国人達に売り払うことを余儀なくされる様子が描写されています。日系人の中には成功して手広く商売をやっていた人達もいただろうから、そのような人達は事業をまるごと格安で米国人に譲渡せざるを得ない状況だったでしょう。
そういえば数年前にどこかで日系人収容所について読んだときに「当時の日系人の証言」(またかよ!泣)として、
「どうしても売りたくない財産は信頼できる米国人に託してから日系人収容所へ行った。終戦の際に収容所から解放された時に米国人は約束通り預けた財産をきちんと返してくれた」
との記述も目にしたんですがこの文章のあまりのウソくささに僕はここでも
「ちょ、戦時中だぜ…そんなお人好しがいるわけないだろ(呆」
と思ったのをいまだに覚えていますが、案の定、本書には厚顔で欲の皮が突っ張っている米国人が嬉々として日本人街にのりこんできて高価な品物をものすごい低価格で剝ぎ取るがごとく日系人から買い漁ってゆく様子が出てくるんです。
こういうのを読むと終戦時まで日系人の資産をきちんと預かってくれたまっとうな米国人も全く存在しなかったとは言わないにせよ、僕が昔見たあの「パッと見まともに聞こえるけど嘘くさい『日系人の証言』として流布していた文章」というのもやっぱり米国側の(とくに日本人へ向けた戦後イメージ向上戦略の)プロパガンダだったのかなという気がものすごーくしてきます。
We Are Not Free ネタバレ感想 日系人収容所内での恋愛って?
戦時中は(生命の危機的状況にあると本能的に判断するので)人間の生殖活動が活発になるというのは一部でよく知られていることですが、やはり太平洋戦争真っただ中の米国日系人収容所でも恋に落ちる若者たちはそれなりにいたようです。
「見張り台の兵士の目を暗闇にまぎれてかいくぐって灯りの届かない茂みに行こうと彼氏と走っていったら、先着の裸のカップルにぶつかってしまい、スミマセン!と謝って逃げた」等の描写も本書に出てきて微笑ましく思ったのですが、そこは戦時中。本書の14人の中にも恋に落ちる少年少女が登場しますが…その恋も戦争の名の下に悲しい結末を迎えます(詳細は伏す)
本書はフィクションとはいえ、著者が日系米国人の元収容所住人に念入りな取材を行っていることからこのへんの描写も妙に現実味をともなっています。
We Are Not Free ネタバレ感想 まとめ
本書に登場する14人の日系人少年少女達(のうち存命できた者達)は生まれ育った故郷である米国から「敵」として扱われながらも必死で生きるうちに3年が過ぎやがて終戦を迎えます。
そう、戦争ですからね。14人全員が無事サンフランシスコ日本人街へ戻れたわけではないんです。
その生き延びた者それぞれがめちゃめちゃに壊された人生を、サンフランシスコの日本人街を建て直してゆこうと故郷に舞い戻ってくる場面は非常に感慨深いものがあります。
本書を読む前は日系人収容所について綺麗ごとしか書いてない「太平洋戦争中当時の米国在住日系人の証言」とされる文章の数々を目にした瞬間に感じた違和感・形容しがたいそこはかとない不快感が胸の奥底に引っかかっていたのですが、僕としては本書を読みながらネット検索しまくったおかげでようやくその違和感・不快感の元凶の全体像が見えた気がしました。
もちろん日系人収容所は一か所だけでなく全米に複数あり収容所によって待遇に差はあったらしいので、すべての日系人が本書にあるような日常を送っていたわけではないです(そこは著者も慎重に強調してる)
が、本書の著者自身が日系米国人4世であり、自分の祖父母・親戚も含めた当時の経験者達にかなり詳細に取材をしてこのたぐいまれな力作を書き上げたこと、またそのおかげでこれまで光があてられることがなかった当時の日系人の声が多くの人々とくに若い世代の少年少女らに届くことになったのはじつは良い意味で計り知れない大きなインパクトを及ぼしているのではないかと僕は考えています。
そして最も恐ろしくわれわれがつねに心に留めておく必要があることは、これがいつ誰の身にもある日突然起こりえるということなんです。
歴史は繰り返さないかもしれないけれど韻を踏むということは十分あり得ます。
この記事を書いている現時点では日本語訳版はまだ出版されていないようですが、今この記事を読んでいるあなた、日本人読者の皆さん、日本語話者の皆さん、英語を読める方はぜひ本書をご一読されることをおすすめします。
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