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ディアトロフ峠事件: ロシア当局の発表【英語で調べよう! 企画】

皆さんは「ディアトロフ峠の怪奇事件」という言葉を聞いたことがおありでしょうか。

もしくは

死に山 – 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相」という本をご覧になったことはありませんか。

 

世界中を震撼させたロシア (当時はソビエト) 最大の未解決事件として有名な山岳遭難事件、それがディアトロフ峠事件。

先週末Twitterを見ていたらこの怪事件に関するロシア当局による発表のニュースが入って来たので記事にしました。ぜひご一読下さい。

 

ラブクラフト
ラブクラフト
怪奇ゴシックホラーのオープニングみたいじゃねえかw
そのご
そのご
興味をもっていることを「英語で学ぶ」のが良いと周りに推奨してるので有言実行するのですよ… ギヒ
ラブクラフト
ラブクラフト
「口で言うだけで行動しない人=残念な人」だからな。

つかその笑いやめれ

ディアトロフ峠の怪事件とはどんな事件なのか

ではディアトロフ峠遭難事件をご存じない方のために、どんな事件だったかおおざっぱにまとめましたので下をご覧ください。

  1. 1959年2月1日の夜、謎の原因によりロシアのウラル山脈北部にあるディアトロフ峠で9人 (男性7名、女性2名) の大学生登山チームが全員行方不明になった
  2. 後日捜索隊が現場付近を捜索すると、キャンプ地から1.5 kmも離れた場所で全員の遺体が見つかった
  3. 遺体はほとんど下着姿同然で靴も履いていなかった。6人の死因は低体温症、のこり3人は頭蓋骨骨折、うち一人 (女性) は舌と両目が無くなっていた。
  4. 遺体が身につけていた衣類からどういうわけか、高濃度の放射線が検出された
  5. 当時は米ソ冷戦まっただ中であったため、「ソビエト政府が秘密の実験をしているのを目撃したために全員消された」「宇宙人のしわざ」「原住民の聖地に侵入したために消された」など、憶測が憶測を呼んでいる
  6. さらに上の内容がインターネットで拡散、世界中でも有名な「奇怪な未解決事件」として知られている

世界中に知れ渡ったのはもちろんインターネット利用が普通になった2000年代からですが、それにさらに輪をかけて広めるきっかけになったのが、2013年に出たドニー・アイカー著の「Dead Mountain」という本です。

 

ラブクラフト
ラブクラフト
これ上で紹介した「死に山」の原書だよな
そのご
そのご
EXACTLYそのとおりでございます

 

「ディアトロフ峠の怪奇遭難事件」に関係ある出来事の時系列はこんなかんじ。

Dyatlov Incident timeline*上年表は管理人による

 

7月11日のディアトロフ峠事件についてのロシア当局の声明とは

では先日7月11日 (土)にロシア政府当局が発表した内容ですが、タス通信*の記事をもとに引用してみます。

(*イタルタス通信と日本では呼ぶが、ソ連時代の”TASS”をこの通信社自身と各国が現在も使ってるのでこの記事中ではタス通信と呼ぶ)

タス通信*の記事リンク

https://tass.com/emergencies/1177345

Prosecutors say avalanche killed Dyatlov group in Urals in 1959

In February 2019, the Prosecutor General’s Office announced an inquiry into the Dyatlov group case, 60 years after their mysterious death

 

ロシア中央検察局が1959年ウラルで起きたディアトロフ隊の死は雪崩によると断定

ディアトロフ峠遭難事件から60年経た2019年2月、ロシア中央検察局は当事件の再調査を開始することを発表した

*当記事中の和訳はすべて管理人による

YEKATERINBURG, July 11. /TASS/. The Russian Prosecutor General’s Office has come to a conclusion that an avalanche killed the Dyatlov group in the Ural Mountains in 1959, Andrei Kuryakov, a deputy chief of the directorate of the Russian Prosecutor General’s Office for the Ural Federal District, told reporters on Saturday.

エカテリンブルグ 7月11日付タス通信

ロシア連邦最高検察庁ウラル連邦管区局副局長アンドレイ・クリャコフ氏は、11日(土)、ロシア最高検察庁が1959年ウラル山中にてディアトロフ隊が全滅した原因は雪崩によるとの最終報告をまとめた、と発表した。

このロシア当局の発表内容、はたして信用するに足るものなのでしょうか?

もう少し詳しくみていきましょう。

ディアトロフ峠事件に関するロシア当局発表の信憑性

7月11日のロシア当局発表は「あからさまに怪しくて信用するに足らないこと」を言っているのではないように見えます。

まずは証拠と仮説を集めて検証したうえで出した「科学的・論理的な結論」であるように見えると管理人は考えます。

今回のロシア当局の発表がまっとうなものに見える理由

まず事件発生当時、事件の知らせを聞いた人々がまっさきに思ったのが、

「冬山探検登山なのになぜ9人の遺体はほとんど下着姿で靴も履いてないのか?!」

でした。

この点は2020年現在のHypothermia (低体温症) についての知識をもとにこの「どうしてほぼ下着姿で靴も履いてないの?」を考えると、けっこう説明がつくような気がしてきます。

まず事件発生当時の夜、下の状況があったと考えられます:

  1. なんらかの異常事態を察知した9人は瞬時に近くの丘に避難を決意、着の身着のままで丘を目指し一同が一斉にダッシュ
  2. だがこの夜は雪が強く吹きつける中だったので視界が効かずテントを見失ってしまう
  3. テントを探そうとしたり火を起こそうとしたりするうち、低体温症に陥ってしまい意識混濁・錯乱、数名が絶命、中には土手に気づかず顔から転落し絶命したものもいる
  4. しかもそこへ運の悪いことに雪崩が襲いかかり、のこり全員も絶命

このシナリオを見て、

「でもこの9人は普通の大学生ではなく全員が訓練を積んだクライマーだったはず。そんな9人が全員あっという間に錯乱するなんてあほなことホントにあるの?」

と疑問に思うそこのあなた。甘いです

Hypothermia (低体温症) は本当に恐ろしい

Hypothermia (低体温症)がもっとも恐ろしいのははなによりもまず、「またたくまに思考力を奪い去る」ところだと思います。

ラブクラフト
ラブクラフト
矛盾脱衣 (paradoxical undressing)」でググってみることも推奨するぞ
そのご
そのご
まあディアトロフ峠事件の場合、テントから出たときからすでに下着姿同然だったというのが有力説ですが、それならなおさら短時間で錯乱状態になったとも考えられますね

あとHypothermia (低体温症) がどれだけ短時間で人命を奪うのか、その恐ろしさについては日本で発生した事件について詳細なデータがあり、しかも無料でネット上で読むことができます。

下のリンクから飛べます↓↓

日本山岳ガイド協会によるトムラウシ遭難事故調査報告書

http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf

かなり詳細な情報が載っていますので、この「トムラウシ遭難事故調査報告書」を一読することをお勧めします。

あと思ったのですが読者の中で零下40度のブリザードの中を徒歩で移動した経験がある方はいらっしゃるでしょうか?

そのご
そのご
管理人はあります

 

管理人の経験から申し上げると、ゴーグルやフェイスガードで顔を覆っていないと数秒のうちに眼を開けていることが辛くなり鼻や口の中が凍り始め、じきにおかしな行動をとり始める人が出てきます(目の前でいきなり泣きわめき始めるとかやりだすので取り押さえる方もすごく大変…)。

しかもハイテク素材製の防護スノースーツで全身をかため、ゴアテックスのブーツと手袋をきちんとした状態で日中の時間帯でこうなるのです。

はい、ではここでディアトロフ峠の9人がどのような服装だったか、どんな心理状態であったか想像して下さい。

 

ラブクラフト
ラブクラフト
まともな判断能力なんぞ秒で消滅だな
そのご
そのご
そうなりますよね

ディアトロフ隊の場合、テントから出てけっこうすぐに行動不能・錯乱に陥ったのではないかという気がしてなりません。

 

「ディアトロフ隊は雪崩により死亡」はあり得るのか

さて上の方で推測した

「ディアトロフ隊メンバー9人が一瞬の状況判断で文字どおり死に物狂いでテントから一斉にダッシュで走り出した、その原因・理由とは何か?」

を論理的・科学的に考えると、

雪崩の音らしきものが聞こえ振動 (rumble) も感じたからではないか?」

となると思います。

ざっとネットを見回すとこの「やっぱ雪崩の音が聞こえたんじゃね?仮説」に近いことをいろいろな国のブロガー達も言っています。

また上で引用したタス通信の記事には載っていないのですが、じつはほかの国々の新聞その他の媒体記事を読み回って情報をつなぎ合わせると、

16mしか視界が効かない状態でテントを見失い、しかも-45°Cという環境で歩き暖をとろうとしているうち低体温症になり、そこに雪崩が来て押しつぶされ絶命した

という状況が浮かび上がってきます。

ラブクラフト
ラブクラフト
Sputnikサイトのどこかに「ディアトロフ峠の付近には花崗岩のエリアが広がっている」とあったし、そんなとこに雪崩のパワーで人間を叩きつけたら全身の骨が砕けて当たり前だよな
そのご
そのご
3-4mの雪が500kgもの重さで瞬時に人間を岩に叩きつけると考えると、ひとたまりもないです

タス通信の記事中にも「身体に雪崩による衝撃を受けたその反対側に損傷が見られ」とあります (ここで訳してないけど見たい人は上リンク先の英語の記事をご参考)。

よって雪崩で死亡した、というのもあり得ると管理人は考えています。

また「地形的に雪崩は起きないと言われている場所だから雪崩で死んだはずがない」という主張もありますが「予測がつかないことが突然発生する」のが山の常識です。

もっと言えば「死に山: Dead Mountain」の著者のドニーが提唱している9人を死へ追いやった真犯人についての仮説ですが、あの仮説だって一見すると科学的論証に見えるけれど、じつは「宇宙人」や「ウラル山脈の雪男」とそれほど変わりないのでは?という気もします。

そのご
そのご
「死に山」を読んでいない皆さんも多いと思うので、この記事中に「死に山」作中に示されている「真犯人の正体」・ネタバレは書きません
dyatlov pass eyecatch pic middle

ディアトロフ峠事件 その他の疑問について

この事件の一番の核心である「9人の直接の死因とは?」に迫るため、低体温症と雪崩の可能性については上で述べました。

では「事件のざっくりとしたまとめ」で挙げた、

3. うち一人 (女性) は舌と両目が無くなっていた。

4. 遺体が身につけていた衣類からどういうわけか、高濃度の放射線が検出された

5. 「ソビエト政府が秘密の実験をしているのを目撃したために全員消された」「宇宙人のしわざ」「原住民の聖地に侵入したために消された」など、憶測が憶測を呼んでいる

の点についてはどうでしょうか。

 

ディアトロフ峠事件 – 女性の舌と両目についての謎

これは「死に山」著者のドニーみずからがすでにYouTubeでもみられるインタビュー (*この記事の下のほうへスクロールすると貼ってあるので視ることができます)でおおっぴらに話しているので書きますが、

  1. 女性はほかのメンバーとテントから飛び出し丘めざしてダッシュした際、雪の下に隠されていた崖に顔から倒れ込んでしまい、そのまま絶命
  2. そのまま遺体発見まで4か月近くが経過、その間に雪解けが始まる
  3. 遺体は逆さまに顔から雪解け水につかった状態になり、水中の微生物が狙ったのが分解しやすい舌と眼であった

というのが有力仮説のひとつです。

著者のドニーもこの記事の下部にリンクしてあるYouTubeトーク中でそう言っていますので、興味おありのかたはどうぞ視聴して下さい。

ラブクラフト
ラブクラフト
この女性の遺体発見までにそもそも4か月近くも経ってるし、正直なんだって起こりうるよな
そのご
そのご
その間に雪解けが始まってるから「あごの力が弱めの小動物・鳥・昆虫」とかもありうるのでは?と思うけど、どうなんでしょうね

 

ディアトロフ峠事件 – 衣類から検出された放射能の謎

事件当時のロシアではなんと、放射線物質を衣類メーカーが平気で衣類製造過程で使っていたからとの情報が(日本語以外の言語ですが)あります。

そのほかにソ連領内の1,400kmの距離で核実験やっていたので影響受けた可能性はじゅうぶんある・そもそも検出された放射能はずばぬけて高いというレベルじゃなかったと某米国人科学者が語っているとの情報もあります。

ラブクラフト
ラブクラフト
ちなみに日本人で現在45歳以上の人たちはより若い世代の日本人と比較してとんでもない量の放射線に幼少時に暴露しているとかな
そのご
そのご
1950-60年代に中国が地下核実験をドンドンやっていたので日本人 (とくに現在60歳以上の人たち) は福島原発事故で漏れたものの一万倍もの放射線量をすでに浴びていたとされる、って説ですね

 

ディアトロフ峠事件 – 原住民部族のしわざなのか

周辺区域にはマンシ族という原住民が住んでいるのですが、「原住民による殺害仮説」も念入りな取り調べののち「けっこう親切な人達でとんだとばっちりだった」で決着しています。

ラブクラフト
ラブクラフト
むしろディアトロフ隊メンバーに「あそこは危ないから行かない方が良いよ」って言ってくれたのもこの人達らしいな
そのご
そのご
いきなりKGBに連行され取り調べ受けたとか、すごく迷惑だったそうですね

 

ディアトロフ峠事件 – 政府による口封じ・宇宙人・雪男なのか

では「見てはならない政府の極秘プロジェクトを見てしまい口止めで文字通り葬られた」「宇宙人によるミューティレーション」「雪男の襲来」などの仮説は?ですが…

はっきり言ってその手の陰謀論・ファンタジー論を言っちゃったら「もうなんでもありの世界」になりますよね。

 

ラブクラフト
ラブクラフト
毎回なんかあるたびにそればっか言うのは、たんなる思考停止・放棄なんじゃね?
そのご
そのご
今この瞬間に手元にあるデータをもとに必死に頭に汗をかくことが大事なんですよね。人間の科学力・論理的思考力はそうやって発展してきたわけです

*ただしディアトロフ事件の遺族の方々は政府陰謀論をかなり確信しており、7月11日のロシア当局発表に対して反論しているそうです。このへんいろいろとロシアという国特有の事情があるようです

さてここで下に貼ってあるYouTubeのインタビューを視てみると、ドニーがこう語るシーンがあります (21:28あたり):

…but I would say this, Lev Ivanov, the lead investigator for this case, his final conclusion was “Unknown compelling force”. 

…ひとつ言っておくと、ディアトロフ峠遭難事件の当時の主任捜査官だったレフ・イワノフ氏が事件調査報告書に書いた最終的な結論は「(この悲劇は)未知の強大な力が原因である」なんだよ

*太字は管理人による・当記事中の和訳はすべて管理人による

手元にある事実をもとにあらゆる知識・マンパワーを総動員して未知の現象に向き合い格闘する。

イワノフ主任捜査官がその姿勢を貫いた結果が、1959年ディアトロフ峠の怪事件発生当時の事件捜査報告書に書かれたこの一言だったのではないか?と管理人は思うのです。

 

ラブクラフト
ラブクラフト
このイワノフ捜査官はディアトロフ峠事件がそれまでの人生で唯一の未解決事件なんだってな
そのご
そのご
“Unknown compelling force” すなわち、

現在のわれわれの知識では測り知れぬ、不可解で人知を超えた強大な力」。

事件発生から61年たった今でもこの事件を語るのに、これを超える言葉はないと管理人は思います。

まとめ: ディアトロフ峠事件と今回のロシア当局発表

 

今回のディアトロフ峠遭難事件についてのロシア当局発表についてまとめポイントです:

  • Hypothermia (低体温症) はマジで非常に恐ろしい
  • 「すべて宇宙人・雪男・陰謀論のせい」は思考放棄かもしれないと気づこう
  • 外圧がないと政府が動かないのはロシアも日本も同じ
  • 英文の読解力を向上させるには自分が知りたいことを英語で調べると楽しいので継続しやすい

さて再度紹介しますが、記事の上の方で紹介した「死に山」本の原書のDonnie Eichar著

Dead Mountain: The Untold True Story of the Dyatlov Pass Incident

ですが、なんとAmazonで買うと付属のAudibleの朗読を著者のドニーさん本人がやっています (しかもなかなか良い声)

 

どんなジャンルでもよいのですがこんな風に、とにかく自分の興味魅かれる本を選ぶことも英語のリスニングの教材選びのポイントとしてかなりおすすめです。

なんといっても内容が頭に残りやすいです。しかもこの本の場合、著者本人の声で何度でも聴ける! これは利用しない手はないです。

最後に、下のYouTubeでドニーさんが2013年にGoogle本社に招かれて行ったトーク (34分間) を観ることができます。なかなか興味深い話が聞けます。

臨場感を感じるためにも、できれば英語の字幕で視てみて下さい↓↓↓

Donnie Eichar: “Dead Mountain” | Talks at Google

 

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英語学習と洋書のブログ管理人のJ3です。 東京とシンガポールほか諸国出張巡りしているけどコロナ禍沈静化しても地獄の円安インフレで日本へ永住帰国できそうにない日本人。主に英語のブラッシュアップたまにシンガポール生活について発信しています。Twitterやってます。

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